カリアッハ・ヴェーラとは
カリアッハ・ヴェーラは、スコットランドのハイランド地方やアイルランドに伝わる、冬をつかさどる老婆の女神です。ゲール語で「青い(あるいは鋭い)老婆」といった意味で、単に「カリアッハ(老婆)」とも呼ばれます。一つ目で青い顔をした大きな老婆の姿で語られ、老婆の姿の妖精ハッグの代表的な存在です。
カリアッハは、単なる恐ろしい魔女ではなく、冬の厳しさや、山や大地そのものの力を表す、神話的な存在です。スコットランドやアイルランドの自然や地形には、カリアッハにまつわる言い伝えが数多く残されています。
冬を支配する老婆
カリアッハ・ヴェーラは、秋の終わりのサウィンの祭り(11月1日ごろ)から、春のベルテインの祭り(5月1日ごろ)まで、冬の半年を支配するといわれます。カリアッハは杖で大地をたたいて凍らせ、草が生えないようにし、嵐や雪を呼びます。冬の厳しい寒さや吹雪は、カリアッハの力によるものだと考えられていたのです。
スコットランド西岸の島々の間には、「コリーヴレッカン」と呼ばれる、世界有数の大きな渦潮があります。冬の始まりに、カリアッハがこの渦で大きな肩掛けを洗うと、それが真っ白になり、大地を覆う雪になるといわれました。渦がごうごうと音を立てるのは、カリアッハが洗濯をしている音だと語られます。
山や岩を作った老婆
カリアッハは、大地の形を作った存在としても語られます。エプロンに岩を入れて運んでいたところ、エプロンのひもが切れて岩がこぼれ落ち、それがスコットランドの山々や島々になったという話があります。巨大な老婆が大地を作ったという話は、日本の「だいだらぼっち」のような巨人の伝説ともよく似ています。
アイルランドのベアラの老婆
アイルランド南西部のベアラ半島には、「ベアラの老婆」と呼ばれるカリアッハの伝説があります。何度も若返りながら長い年月を生き、多くの夫や子どもを持ったという老婆で、最後は石になったと伝えられています。半島には、この老婆が姿を変えたとされる岩が今も残り、訪れる人々が硬貨などを供えていく場所になっています。
春の訪れと冬の老婆
春が来ると、カリアッハ・ヴェーラは力を失います。春の女神ブリジッド(聖ブリジッド)との関係で語られることも多く、冬の老婆が力を失うと、春の女神が大地を目覚めさせるとも考えられました。カリアッハは、春になると石に姿を変えるとも、若く美しい娘に生まれ変わるとも語られています。
スコットランドの山あいには、カリアッハとその家族をかたどったとされる小さな石を祀った場所があり、冬の間は石を小屋の中に入れ、夏になると外に出すという習わしが、長く守られてきたと伝えられています。季節のめぐりを、石を出し入れすることで表していたのです。
自然の厳しさを表す存在
カリアッハ・ヴェーラは、厳しい冬を生きた人々が、自然の力を人の姿で表した存在だといえます。冬は命を奪う恐ろしい季節であると同時に、やがて春の再生へとつながる季節でもありました。冬の老婆が春に若い娘に生まれ変わるという話は、季節のめぐりそのものを表しているのです。同じ老婆の怪異でも、子どもを襲うブラックアニスとは違い、カリアッハは大地と季節の神として敬われてきました。





コメント(0)
まだコメントはありません。伝承や目撃談の補足、感想など、最初のコメントを書いてみませんか?