【動画】犬鳴村は実在するのか?記録をたどったら「○○の村」だった
犬鳴村とは
犬鳴村(いぬなきむら)は、福岡県宮若市と糟屋郡久山町の境にある犬鳴峠の奥に、地図から消された村があるという都市伝説です。1990年代からインターネットの掲示板などで広まり、「この先、日本国憲法通用せず」という看板の話とともに、日本でもっとも有名な怖い話の一つになりました。2020年には映画にもなっています。
ただし、「犬鳴村」として語られる話は一つではありません。江戸時代から実在した「犬鳴谷村」の歴史、昭和の旧犬鳴トンネルにまつわる心霊の噂、1988年にトンネル付近で起きた実際の事件、そしてネット上で作られた架空の村の設定――本来は別々のこうした話が重なり合って、今の「犬鳴村伝説」ができあがっています。この記事では、それぞれを分けて紹介します。
語られてきた噂のパターン
ネット上で語られてきた犬鳴村の噂には、次のようなものがあります。
- 村の入り口に「この先、日本国憲法通用せず」という看板が立っている
- 村は地図に載っておらず、外の世界との交流を断って暮らしている
- 村に入ると、鎌や斧を持った村人に追いかけられる
- 村の近くでは携帯電話がつながらなくなる
- かつて村で惨劇が起き、廃村になった
これらはいずれも裏付けのない作り話で、看板や「村人」の存在を確かめた記録はありません。岡山県の津山事件を下敷きにした「杉沢村伝説」など、同じころに広まった「地図から消えた村」の話とよく似た筋立てであることから、その連想で作られたのではないかと考えられています。犬鳴村を扱った本もいくつか出ていますが、多くはネット上の噂を後から紹介したものです。
実在した「犬鳴谷村」
噂の舞台とされる犬鳴峠の北側(現在の宮若市犬鳴)には、かつて「犬鳴谷村」という実在の村がありました。江戸時代の元禄年間(1690年代)に、福岡藩の足軽たちが移り住んで開いたと伝わる山あいの村です。周辺の山では、砂鉄から鉄をつくる「たたら製鉄」も行われていました。
幕末の1865年(慶応元年)ごろには、福岡藩が非常時に藩主が身を寄せるための「犬鳴御別館」をこの山中に建てました。しかし、計画を進めた家老の加藤司書らが藩内の政争で処分されたため、本来の目的で使われることはなかったといわれます。館の跡には今も石垣が残っています。
犬鳴谷村は、1889年(明治22年)に町村制が施行されたとき周辺の村と合併し、村としての名前はなくなりました。その後、犬鳴川の上流に犬鳴ダム(1970年着工、1994年完成)が造られることになり、集落の住民は移転し、かつての村の一部はダム湖の底に沈みました。「実際に村がなくなった」というこの歴史が、「地図から消えた村」という伝説の下地になったと考えられています。
ここで大切なのは、犬鳴谷村が噂のような閉ざされた村ではなく、ふつうの人々が暮らしを営んだ山村だったということです。
旧犬鳴トンネルと心霊スポットの噂
犬鳴峠を越える道は、古くから福岡と筑豊・北九州を結ぶ交通路でした。峠の下を抜ける犬鳴隧道(旧犬鳴トンネル)は、明治時代に一度工事が始められたものの、技術や費用の問題で中断し、昭和に入って改めて建設が進められて、1949年(昭和24年)に開通しました。
1975年(昭和50年)に新しい犬鳴トンネルが開通すると、旧道と旧トンネルはほとんど使われなくなりました。人通りのなくなった旧道では、ごみの不法投棄や暴走族のたまり場になるなどの問題が起き、やがて閉鎖されます。現在、旧トンネルの入り口はコンクリートブロックでふさがれ、旧道も柵で封鎖されています。
旧トンネルには、インターネットが広まる前から「工事で亡くなった人の霊が出る」といった噂がありました。人の通らない古いトンネルという雰囲気もあって、九州でも有名な「心霊スポット」として語られるようになり、のちに犬鳴村の噂と結びついていきます。
1988年に起きた事件
旧犬鳴トンネルが「恐ろしい噂の中心地」として知られるようになった背景には、現実に起きた痛ましい事件もあります。1988年(昭和63年)12月、田川市で20歳の男性が車を奪われて連れ去られ、旧犬鳴トンネル付近で殺害されるという事件が起きました。事件にかかわった16〜19歳の少年ら5人が逮捕され、主犯の少年は1991年に無期懲役が確定しています。
この事件は伝説や怪談ではなく、実際に一人の若者の命が奪われた犯罪です。ネット上では事件と「村」や「霊」の噂が混ぜて語られることもありますが、事件と犬鳴村伝説は本来まったく別のものです。被害に遭われた方とご遺族の気持ちを考え、ナゾマップでは事件を怖い話の材料としては扱わず、噂が広まった背景として事実だけを記しています。
映画『犬鳴村』と「恐怖の村」シリーズ
2020年2月7日、この都市伝説をもとにしたホラー映画『犬鳴村』(監督:清水崇、主演:三吉彩花、配給:東映)が公開されました。興行収入は14億円を超えるヒットとなり、『樹海村』(2021年)、『牛首村』(2022年)と続く「恐怖の村」シリーズの第1作になりました。映画は、ネット上の「閉ざされた村」の話をそのまま描くのではなく、旧犬鳴トンネルを舞台にした霊の物語として作り直されています。
前年の2019年には、旧トンネルを題材にしたインディーゲーム『犬鳴トンネル』も発売されるなど、犬鳴は映画やゲームの題材としても広く知られるようになりました。
噂が生む問題 ― 偏見と迷惑行為
犬鳴村の噂には、「外の世界と断絶した一族」「法律の通じない村」といった設定が多く含まれます。こうした話は根拠がないだけでなく、実在の地域やそこで暮らしてきた人々への偏見を生み、特定の集落への差別を連想させるおそれがあると指摘されています。噂を語るときは、それが作り話であることを忘れないようにしたいものです。
また、噂を確かめようと夜中に旧道へ向かう人もいますが、旧犬鳴トンネルと旧道は立ち入りが禁止された場所です。柵を越えて入ることは不法侵入などの法律違反になるおそれがあり、街灯のない山道では事故の危険もあります。騒音やごみは地域の方の大きな迷惑にもなります。犬鳴村は、あくまで都市伝説として楽しみましょう。
同じように実在の場所と結びついたネット発の怪談には、架空の駅をめぐるきさらぎ駅や、島根県を舞台にしたコトリバコなどがあります。





コメント(0)
まだコメントはありません。伝承や目撃談の補足、感想など、最初のコメントを書いてみませんか?