ブラックシャックとは
ブラックシャックは、イギリス東部のイースト・アングリア地方(ノーフォーク、サフォークなど)に伝わる、巨大な黒い犬の怪物です。子牛ほどの大きさで、燃えるような赤い目を持ち、夜の道や海岸、墓地に現れるといわれます。その姿を見た者には不幸が訪れる、あるいは1年以内に死んでしまうと恐れられてきました。
名前の「シャック」は、古い英語で「悪魔」や「悪霊」を意味する言葉に由来するという説があります。イギリスには各地に「黒い犬」の伝承があり、ブラックシャックはその中でも最も有名な存在です。
1577年の教会襲撃
ブラックシャックを有名にしたのが、1577年8月の激しい雷雨の日の出来事です。この日、サフォーク州の町バンゲイの教会で人々が礼拝をしていると、激しい雷鳴とともに黒い犬が現れ、教会の中を駆け回りました。犬が通り過ぎると、礼拝していた人々のうち二人が倒れて亡くなったといいます。
同じ日、そこから十数キロ離れたブライスバラの教会にも黒い犬が現れ、人々を襲ったうえ、教会の尖塔が崩れ落ちたと伝えられています。この出来事は、当時の牧師エイブラハム・フレミングが書いた小冊子『奇妙で恐ろしい驚異』に記録され、広く知られるようになりました。
教会の扉に残る「爪の跡」
ブライスバラの教会の北側の扉には、ブラックシャックが去り際につけたという、焦げたような黒い跡が残っていると伝えられ、「悪魔の指の跡」とも呼ばれています。今もこの跡を見るために教会を訪れる人がいます。
バンゲイの町では、ブラックシャックは町の象徴となっており、町の紋章や標識には、稲妻とともに黒い犬の姿が描かれています。恐ろしい怪物が、今では町の名物として親しまれているのです。
1577年の出来事の正体
1577年の出来事は、激しい落雷による被害が、黒い犬の伝説と結びついて語られたものと考えられています。教会の高い尖塔は雷が落ちやすく、雷が建物の中を走って人が亡くなったり、塔が崩れたり、焦げた跡が残ったりすることは、実際に起こりうることです。人々は、その恐ろしい出来事を、悪魔の使いである黒い犬のしわざとして記録したのでしょう。
イギリス各地の「黒い犬」
イギリスには、ブラックシャックのほかにも、各地に「黒い犬(ブラックドッグ)」の伝承が残っています。教会の墓地を守るとされる「チャーチ・グリム」と呼ばれる黒い犬や、夜道で旅人の後をついてくる黒い犬など、その性格は地域によってさまざまです。中には、旅人を守ってくれる優しい黒い犬の話もあります。
2014年には、イースト・アングリアの修道院の遺跡を発掘していた研究者たちが、非常に大きな犬の骨を見つけたと報じられ、「ブラックシャックの骨ではないか」と話題になりました。
物語の中の黒い犬
イギリスの黒い犬の伝承は、多くの物語に影響を与えたといわれています。アーサー・コナン・ドイルの推理小説『バスカヴィル家の犬』(1902年)では、イングランド南西部の荒野に現れる、燃える目を持つ巨大な魔犬が、名探偵シャーロック・ホームズの前に立ちはだかります。また、イギリスの首相チャーチルは、自分を苦しめる憂うつな気分を「黒い犬」と呼んだことでも知られています。死を予告する存在としては、アイルランドのバンシーや、首のない騎士デュラハンもよく知られています。





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