コルンムーメとは
コルンムーメは、ドイツの民間信仰に伝わる、麦畑にすむ精霊です。名前はドイツ語で「麦のおばさん」という意味で、ライ麦畑の精霊は「ロッゲンムーメ」とも呼ばれます。実った麦畑の中にひそみ、畑に入り込んだ子どもをさらうと恐れられてきました。
ドイツには、畑や穀物にすむ精霊(フェルトガイスト)の伝承が数多く伝わっており、コルンムーメはその代表的な存在です。恐ろしい存在であると同時に、畑の実りをもたらす存在とも考えられていました。
麦畑にひそむ老婆
コルンムーメは、黒い顔や燃えるような指を持つ老婆の姿で語られることが多く、長い乳房を持つとする地域もあります。背の高い麦が実る夏、麦畑の中にひそんでいて、畑に入り込んだ子どもを捕まえて連れ去ったり、妖精の子どもとすり替えたりすると恐れられました。
実った麦畑は、子どもの背よりもずっと高く、一度入り込むと方向がわからなくなって迷子になりやすい場所でした。また、麦の穂を踏み荒らされると、大切な収穫が台無しになってしまいます。「畑に入るとコルンムーメに連れて行かれるよ」という言葉は、子どもたちを畑から遠ざけ、迷子や作物の被害を防ぐための戒めでもあったのです。
麦の波と精霊
風が吹いて、麦畑の穂が波のように揺れると、ドイツの農村では「麦のオオカミが走っている」「麦のおばさんが通っている」などと言われることがありました。目に見えない精霊が、麦畑の中を動き回っていると考えられていたのです。麦畑の精霊は、地域によってオオカミやブタ、ヤギなど、動物の姿で語られることもありました。
真昼の精霊
コルンムーメは、暑い真昼に働きすぎる農民に罰を与えるともいわれます。スラヴの地域には、夏の真昼の畑に現れ、働き続ける人に問いかけをして、答えられないと命を奪う「真昼の女(ポルドニツァ)」という精霊の伝承もあります。真夏の炎天下での作業は、熱中症などで命にかかわる危険があり、こうした精霊の話は、真昼の休息の大切さを伝えるものでもあったと考えられています。
最後の麦束と収穫の風習
一方で、コルンムーメは畑の実りをもたらす存在とも考えられました。ヨーロッパの農村では、穀物の精霊は畑の中に住んでいて、刈り取りが進むにつれて、まだ刈られていない麦の中へと逃げ込んでいくと信じられていました。そして、最後に刈り取る麦の束に、穀物の精霊が宿ると考えられたのです。
そのため、最後の麦の束を人形のように編んで飾ったり、祭りで大切に扱ったりする風習が各地にありました。この人形は、翌年の豊作を願って、次の種まきの時期まで保存されることもありました。
マンハルトとフレイザーの研究
19世紀のドイツの民俗学者ヴィルヘルム・マンハルトは、ドイツ各地の農村を調べ、こうした畑の精霊の伝承を数多く集めて記録しました。その研究に影響を受けたイギリスの人類学者ジェームズ・フレイザーは、著書『金枝篇』で、世界各地の「麦の母」の信仰や収穫の儀式を詳しく紹介し、穀物の精霊の考え方を広く世に知らせました。
日本の田の神と比べて
日本にも、田んぼの稲を見守る「田の神」の信仰があります。春に山から下りてきて田の神となり、秋の収穫が終わると山へ帰っていくと考える地域もあります。作物の実りを守る見えない存在を信じる心は、ヨーロッパの麦畑と日本の田んぼで、よく似ているのです。ドイツの精霊としては、家と鉱山の精霊コボルトもよく知られています。





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