月の兎とは
月の兎は、満月の表面に見える黒い模様を、うさぎの姿に見立てた伝承です。日本では「月でうさぎが餅をついている」とよくいわれ、十五夜のお月見でもおなじみの存在です。月の模様の暗い部分は、実際には「海」と呼ばれる、玄武岩でできた平らな低地で、アポロ11号が着陸した「静かの海」もその一つです。
月にうさぎがいるという話は、日本だけでなく、インドや中国、さらには遠く離れたアメリカ大陸にも伝わっています。どうして多くの地域で、月とうさぎが結びつけられたのでしょうか。
インドの仏教説話
月のうさぎの由来としてよく知られているのが、古代インドのブッダの前世の物語(ジャータカ)に由来する話です。うさぎ、猿、狐(話によってはカワウソやジャッカル)が、飢えた老人のために食べ物を探しに行きました。猿は木の実を、狐は魚を持ち帰りましたが、うさぎは何も見つけることができません。
そこでうさぎは、老人に火をたいてもらうと、「私を食べてください」と言って自ら火の中に飛び込みました。実は老人は帝釈天という神で、うさぎの自分を犠牲にした行いをたたえ、その姿を月に描いて、すべての人がいつまでも見られるようにしたといいます。
『今昔物語集』の月のうさぎ
このインドの話は、仏教とともに日本にも伝わりました。平安時代の終わりごろにまとめられた説話集『今昔物語集』にも、うさぎ・狐・猿の話が収められています。日本の話では、月に見えるうさぎの姿のまわりの黒い部分は、うさぎが火に飛び込んだときの煙だと説明されています。
中国の玉兎と不老不死の薬
中国では、月には「玉兎(ぎょくと)」といううさぎがいて、臼と杵で不老不死の薬をついていると伝えられてきました。月の宮殿には、夫が手に入れた不老不死の薬を飲んで月へ昇った仙女「嫦娥(じょうが)」が住んでいるとされ、玉兎は嫦娥とともに語られることも多い存在です。
日本では、この「薬をつくうさぎ」が「餅をつくうさぎ」に変わったといわれています。満月を表す「望月(もちづき)」と「餅つき」をかけた言葉遊びから生まれた、という説もあります。
太陽の金烏と月の玉兎
中国の神話では、太陽には三本足の烏金烏(きんう)がすみ、月には玉兎がすむとされました。太陽と月を表す「金烏玉兎(きんうぎょくと)」という言葉は、そこから「月日」や「歳月」を意味するようになりました。
世界の月の模様
月の模様の見え方は、国や地域によってさまざまです。ヨーロッパでは、月にカニや、薪を背負った男、女性の横顔を見る地域があり、南米ではロバ、アラビアではライオンに見立てる地域もあるといいます。
中米のアステカの神話にも、月にうさぎがいる理由を語る話があります。神が月の光を弱めるために、うさぎを月に投げつけたため、月にうさぎの姿が残ったというのです。遠く離れた地域で同じようにうさぎを見ていたことは、月の模様が本当にうさぎのように見えるからかもしれません。
月探査機「玉兎」
2013年、中国の月探査機「嫦娥3号」が月面に着陸し、そこから月面を走る探査車が降り立ちました。この探査車の名前は「玉兎号」です。古い伝説のうさぎの名前が、本物の月面を走る探査車に受け継がれたのです。月にまつわる不思議な話としては、満月の夜に人の心が乱れるという月の魔力の話もあります。





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