ウロボロスとは
ウロボロスは、自分の尾をくわえて輪の形になった蛇や竜の図像です。名前はギリシャ語で「尾を飲み込むもの」を意味します。自分を食べながら自分から生まれ続ける姿は、始まりも終わりもない「無限」「永遠」、そして「死と再生」「循環」を象徴するとされます。
ウロボロスは、古代エジプトから錬金術、心理学、現代のデザインに至るまで、長い歴史の中でさまざまな意味を込めて描かれてきました。
古代エジプトのウロボロス
尾をくわえた蛇の最も古い例の一つは、紀元前14世紀の古代エジプトのファラオ、ツタンカーメンの墓から見つかった厨子(ずし)に描かれた図像だとされます。そこでは、太陽神を取り巻く蛇として描かれ、太陽が毎日沈んでは昇る、永遠のめぐりを表していたと考えられています。
古代エジプトの人々にとって、蛇は脱皮をくり返して生まれ変わる、再生の象徴でもありました。尾をくわえて輪になった蛇は、世界のはじまりと終わりがつながっていることを表していたのかもしれません。
錬金術の象徴としてのウロボロス
ウロボロスは、その後、ヘレニズム時代のエジプトで生まれた錬金術に受け継がれました。紀元後の時代に書かれたとされるギリシャ語の錬金術の写本『クレオパトラの金作り』には、「一は全なり」という言葉とともに、黒と白に塗り分けられたウロボロスが描かれています。
錬金術では、物質は形を変えながら、ふたたび一つの根源に戻っていくと考えられていました。自分を食べて自分から生まれるウロボロスは、こうした錬金術の思想を表す、最も重要なシンボルの一つとなりました。中世から近世のヨーロッパの錬金術書には、ウロボロスの姿がたびたび描かれています。錬金術の秘密を絵で表したリプリー・スクロールや、人造人間ホムンクルスと並んで、錬金術を象徴する存在です。
グノーシス主義とウロボロス
古代のローマ帝国の時代に広まった、グノーシス主義と呼ばれる宗教思想でも、ウロボロスは重要な意味を持っていました。世界を取り囲む巨大な蛇として、物質の世界の限界を表すものと考えられたのです。
化学者が見た夢
ウロボロスにまつわる有名な話に、19世紀のドイツの化学者ケクレの夢があります。ケクレは、炭素の原子が6つ輪になってつながる「ベンゼン環」の構造を発見したことで知られていますが、のちの講演で、暖炉の前でうたた寝をしていたとき、蛇が自分の尾をくわえてくるくると回る夢を見て、ベンゼンの輪の形を思いついた、と語ったといわれています。
心理学とウロボロス
20世紀には、スイスの心理学者カール・グスタフ・ユングが、錬金術の研究を通じてウロボロスに注目しました。ユングは、ウロボロスを、人間の心の奥にある、すべてが一つにまとまった原初の状態を表す「元型」の一つとして論じました。
世界の神話に見られる尾をくわえる蛇
北欧神話では、世界を取り巻く海に住む大蛇ヨルムンガンドが、自分の尾をくわえて大地を囲んでいるとされます。インド神話でも、原初の海で輪になるナーガの王アナンタのように、世界と蛇を結びつけるイメージが見られます。遠く離れた地域で、世界を囲む蛇のイメージが生まれていることは、とても興味深いことです。
現代のウロボロス
ウロボロスは現在も、無限や循環を表すロゴやデザイン、アクセサリー、ファンタジー作品のモチーフとして広く使われています。数学で無限大を表す「∞」の記号と結びつけて語られることもあり、終わりのないもの、くり返し続くものの象徴として、多くの人を引きつけています。





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