リプリー・スクロールとは
リプリー・スクロールは、錬金術の奥義である「賢者の石」の作り方を、象徴的な絵と詩で表した巻物です。長いものでは6メートル近くにもなり、16〜17世紀に作られた写しが、大英図書館やアメリカの図書館などに20点ほど残っています。
巻物には、竜や蛇、鳥、太陽と月など、不思議な絵が次々と描かれており、一見すると何を表しているのかわかりません。しかし、その一つひとつには、錬金術師たちが秘密にしようとした知識が込められているのです。
ジョージ・リプリー
巻物の名前は、15世紀イギリスの聖職者で錬金術師のジョージ・リプリーにちなみます。リプリーは、イングランド北部のブリドリントンの修道院の聖職者で、イタリアなどで錬金術を学んだといわれています。1471年には、錬金術の工程を12の段階に分けて説明した詩『錬金術の構成』を書き、国王エドワード4世にささげました。
ただし、リプリー・スクロールそのものは、リプリーが自分で作ったものではなく、リプリーの死後に、彼の名声にあやかって作られたものと考えられています。巻物に書かれた詩の一部は、リプリーの作品とされる詩から取られています。
リプリー・スクロールに描かれたもの
巻物の上部には、フラスコを抱えた錬金術師の姿が描かれ、その下に、太陽と月、何匹もの竜や蛇、ヒキガエル、そして「ヘルメスの鳥」と呼ばれる鳥などが、詩の文章とともに続いていきます。巻物の下の方には、翼を持つ竜が描かれています。
これらの絵は、物質を溶かし、腐らせ、清め、ふたたび結合させるという錬金術の工程を、生き物や天体のたとえで表したものとされます。例えば、太陽は金や男性の原理、月は銀や女性の原理を表し、その二つが結びつくことで、賢者の石が生まれると考えられていました。
絵で伝える秘密の知識
錬金術では、こうした象徴の絵(エンブレム)を使って、秘密の知識を限られた人にだけ伝えようとしました。錬金術の知識は、だれにでも理解できる言葉で書いてしまうと、悪用されたり、価値が失われたりすると考えられていたのです。そのため、錬金術の本は、たとえや謎めいた絵であふれていました。
自分の尾をくわえる蛇ウロボロスや、フラスコの中で作られる人造人間ホムンクルスと同じく、リプリー・スクロールは、錬金術の神秘的な世界を今に伝える貴重な資料です。
錬金術と賢者の石
賢者の石は、ふつうの金属を金に変え、不老不死の薬(エリクサー)にもなるとされた究極の物質です。中世から近世のヨーロッパでは、多くの錬金術師が、その完成を目指して実験を重ねました。17世紀のイギリスでは、学者エリアス・アシュモールが、リプリーを含むイギリスの錬金術師たちの詩を集めた本を出版しています。
錬金術から化学へ
錬金術は迷信と見られがちですが、物質を加熱・蒸留・分離するさまざまな実験の積み重ねは、のちの化学の発展にもつながりました。万有引力の法則を発見したアイザック・ニュートンも、錬金術の研究に熱心に取り組んでいたことが知られています。リプリー・スクロールのような錬金術の資料は、科学が生まれる前の時代に、人々がどのように物質の謎に迫ろうとしていたのかを教えてくれます。





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