かまいたちとは
かまいたち(鎌鼬)は、つむじ風に乗って現れ、人の手足などを鋭い鎌で切りつけるという妖怪です。イタチのような姿で、前足が鎌のようになっていると語られます。切られた傷は深いのに、不思議と痛みがなく、血もほとんど出ないといわれます。雪国を中心に、日本各地に伝わっています。
道を歩いていて、気づいたら足にすっぱりと切り傷ができていた――そんな不思議な体験は、昔からかまいたちのしわざとして語られてきました。
三匹一組のかまいたち
岐阜県の飛騨地方などでは、かまいたちは三匹一組で現れるといわれています。一匹目が人を突き倒し、二匹目が鎌で切りつけ、三匹目が傷口に薬を塗っていくので、痛みも出血もないのだと説明されてきました。人を傷つけるのに薬まで塗っていくという、少し不思議な妖怪です。
新潟県では、かまいたちは「越後の七不思議」の一つに数えられ、特定の場所で転ぶと、かまいたちに切られると語られてきました。地域によっては、かまいたちは神の祟りや、悪い風(悪風)が人を傷つけるものだと考えられることもありました。
鳥山石燕の「窮奇」
江戸時代の浮世絵師・鳥山石燕は、1776年の妖怪画集『画図百鬼夜行』で、つむじ風の中を駆けるイタチのような獣の姿でかまいたちを描き、「窮奇(かまいたち)」と名付けました。
「窮奇(きゅうき)」は、もともと古代中国の地理書『山海経』などに登場する、翼のある虎のような怪物の名前です。石燕は、この中国の怪物の名前に「かまいたち」という読みを当てたのです。「かまいたち」という名前は、「構え太刀(かまえたち)」がなまったものだという説もあります。
真空説は本当?
かまいたちの正体として、かつてよく語られたのが「真空説」です。つむじ風の中に真空の部分ができ、そこに触れた皮膚が、気圧の差によって裂けてしまうという説明で、科学的な説明として広く信じられてきました。
しかし現在では、この説は否定されています。自然のつむじ風の中で、皮膚を切り裂くほどの真空ができることはありません。また、もし気圧の差で皮膚が裂けるのなら、体のほかの部分にも影響が出るはずです。
本当の原因は何か
かまいたちの傷の原因として、現在考えられているのは、寒さや乾燥で弱った皮膚が、ちょっとした衝撃で裂けてしまうというものです。冬の寒い時期には、皮膚の血行が悪くなり、乾燥して弾力が失われます。そこへ、転んだり、何かにぶつかったりする強い力が加わると、皮膚が切れたように裂けることがあるのです。
寒さで血管が縮んでいるため、傷ができても出血が少なく、すぐには痛みを感じにくいこともあります。かまいたちの話が雪国に多いことや、「痛みがなく血も出ない」と語られることは、こうした説明とよく合っています。風の強い日に、風で飛ばされた小石や木の枝、砂などが当たって傷ができたという場合もあったでしょう。
現代のかまいたち
かまいたちは、現代の漫画やアニメ、ゲームでも、風を操って相手を切り裂く妖怪やキャラクターとして人気があります。また、強い風が人を傷つけるという現象そのものを、今でも「かまいたち」と呼ぶことがあります。目に見えないものが人を傷つけるという不思議な体験は、昔の人にとって、妖怪のしわざとしか思えないものだったのでしょう。風にまつわる日本の妖怪としては、空から舞い降りる一反木綿もよく知られています。





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