ザントマンとは
ザントマンは、ドイツなどヨーロッパの国々に伝わる眠りの精で、ドイツ語で「砂男」という意味です。英語では「サンドマン」と呼ばれます。夜になると子どもたちのもとにやって来て、目に魔法の砂をまき、眠りに誘うといわれています。
朝、目が覚めたときに目やにがついているのは、ザントマンがまいた砂のせいだと言い伝えられてきました。また、夜に眠くなって子どもが目をこするのは、目に砂が入ったからだともいわれます。ザントマンは、子どもを寝かしつけるときに語られる、身近な眠りの精でした。
優しいザントマンと怖いザントマン
ザントマンは、子どもたちに安らかな眠りを運んでくる優しい存在として語られる一方で、「早く寝ないとザントマンが来るよ」と、子どもを怖がらせる言葉にも使われてきました。なかなか寝ない子どものところには、ザントマンがやって来て、目に砂を投げ込むというのです。
夜になると眠くなり、目がしょぼしょぼする感覚は、だれもが知っているものです。ザントマンの言い伝えは、そうした身近な体験を、目に見えない精霊のしわざとして説明したものだと考えられます。
ホフマンの短編『砂男』
ザントマンを恐ろしい存在として描いた作品として有名なのが、ドイツ・ロマン派の作家E・T・A・ホフマンが1816年に発表した短編小説『砂男』です。物語の主人公ナターナエルは、子どものころ、乳母から「砂男は寝ない子どもの目に砂を投げ込み、飛び出した目玉を袋に入れて、月にいる自分の子どもたちに食べさせる」という恐ろしい話を聞かされます。
ナターナエルは、夜ごと父親のもとを訪ねてくる不気味な弁護士こそが砂男だと思い込み、その恐怖を大人になっても忘れることができません。やがて彼は、美しい娘オリンピアに恋をしますが、彼女は実は精巧に作られた自動人形でした。物語は、幻想と現実の区別がつかなくなっていく主人公の姿を描き、悲劇的な結末を迎えます。
フロイトの「不気味なもの」
ホフマンの『砂男』は、のちに心理学者ジークムント・フロイトが1919年に発表した論文「不気味なもの」の中で詳しく取り上げられました。フロイトは、目を失うことへの恐れや、生きているのか人形なのかわからないものに感じる不安など、この物語の中に、人が「不気味だ」と感じる心の仕組みを読み取ろうとしました。この論文によって、『砂男』は文学だけでなく、心理学の分野でもよく知られる作品になりました。
アンデルセンの眠りの精
デンマークの童話作家アンデルセンは、1841年に童話『眠りの精(オーレ・ルゲイエ)』を発表しました。オーレ・ルゲイエは、子どもの目に甘いミルクをたらして眠らせ、良い子には楽しい夢を見せる眠りの精で、ザントマンとよく似た存在です。北ヨーロッパには、このように子どもを眠らせる精霊の言い伝えが広く伝わっていました。
テレビの「ザントメンヒェン」
ドイツでは、1959年から子ども向けのテレビ番組「ザントメンヒェン(砂男ちゃん)」が放送されています。白いひげを生やした小さな砂男の人形が登場し、短いお話のあとに子どもたちに眠りの砂をまいて「おやすみ」を告げる番組で、東西に分かれていた時代のドイツの両方で作られました。現在も続く長寿番組として、多くの家庭で親しまれています。
音楽や物語のサンドマン
サンドマンは、英語圏の音楽や物語にもたびたび登場します。1954年にアメリカで大ヒットした歌「ミスター・サンドマン」は、眠りの精に素敵な恋人の夢を見せてほしいと願う歌です。一方で、ロックの曲やホラー映画では、悪夢を運んでくる不気味な存在として描かれることもあります。1989年に始まったアメリカのコミック『サンドマン』では、夢の世界を支配する存在として登場し、のちにドラマにもなりました。
眠りと夢の精霊
眠りや夢にまつわる不思議な存在は、世界中に伝わっています。夜中に胸の上にのしかかって人を苦しめるナイトハッグのように、眠っている間の怖い体験を説明する存在もあれば、ザントマンのように眠りへやさしく誘う存在もあります。眠りは毎日のことでありながら、昔の人にとっては、とても不思議なものだったのです。
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