妖狐とは
妖狐(ようこ)は、不思議な力を持つ狐の妖怪の総称です。日本では昔から、狐は人を化かしたり、美しい女性などに化けて人間の世界に入り込んだりすると信じられてきました。夜の山野に浮かぶ怪しい火「狐火(きつねび)」や、晴れているのに雨が降る「狐の嫁入り」など、狐にまつわる言葉も数多く残っています。
一方で、狐は稲荷神社の神の使いとして大切にされる存在でもあります。人をだます恐ろしい妖怪であると同時に、神聖な存在でもあるという二つの顔を持つのが、日本の狐の大きな特徴です。
『日本霊異記』の狐の妻
日本の古い書物にも、狐の話はたびたび登場します。平安時代初めに僧の景戒がまとめた仏教説話集『日本霊異記』には、ある男が美しい女性を妻に迎えたところ、その正体は狐だったという話が収められています。正体を知られても、男は「いつでも来て寝なさい」と言い、それから狐は夜ごとに通ってきた――この「来つ寝(きつね)」が、狐という名前の由来だとする話です。もちろん言葉遊びの面もありますが、古くから狐が人間と深くかかわる存在と考えられていたことがわかります。
長生きするほど力が強くなる
中国の伝承では、狐は長く生きるほど霊力が強くなると考えられていました。五十年で人に化けられるようになり、百年で美女に化け、千年を経ると天に通じて尾が九本の九尾の狐になるともいわれます。
日本でも、長生きした狐は尾が増えて神通力を得るとされ、狐の位を表す呼び名が生まれました。千年を生きて天に通じた狐は「天狐(てんこ)」、さらに長く生きて尾を持たなくなった狐は「空狐(くうこ)」と呼ばれ、神に近い存在と考えられました。
善い狐と悪い狐
狐は、その性質によって「善狐(ぜんこ)」と「野狐(やこ)」に分けて語られることもありました。善狐は、稲荷神の使いとして人々に福をもたらす狐で、白い毛の「白狐(びゃっこ)」がその代表です。稲荷神社の入り口に、狛犬の代わりに狐の像が置かれているのは、このためです。
一方、野狐は人をだましたり、人に取り憑いたりする悪い狐とされました。人に狐が取り憑いて、病気や異常な行動を引き起こすという「狐憑き」の俗信は、江戸時代まで各地に広く残っていました。小さな狐を竹筒に入れて使うという管狐の話も、こうした狐の信仰から生まれたものです。
葛の葉と安倍晴明
狐の伝説の中でも特によく知られているのが、平安時代の陰陽師・安倍晴明の母は、信太(しのだ)の森に住む白狐「葛の葉」だったという話です。葛の葉は人間の男と結ばれて子を産みますが、正体を知られて森へ帰っていきます。その子が、のちに不思議な力を持つ陰陽師になったというこの物語は、浄瑠璃や歌舞伎の題材となり、広く親しまれました。
玉藻前と九尾の狐
人をだます妖狐の代表が、平安時代の鳥羽上皇に仕えた美女・玉藻前(たまものまえ)の伝説です。玉藻前の正体は九尾の狐で、上皇を病に陥れましたが、陰陽師に正体を見破られて那須野へ逃げ、退治されたあとは毒を放つ石「殺生石」になったと語られます。この伝説については、ナゾマップの相関図「九尾の狐と玉藻前」でも、登場人物や関係を図で紹介しています。
狐と狸
狐は、狸とともに「狐狸(こり)」と並び称される、化かす動物の代表格です。「狐の七化け、狸の八化け」ということわざもあり、どちらが化けるのがうまいかという話も語られてきました。江戸時代の浮世絵師・鳥山石燕も、狐にまつわる妖怪を妖怪画集に描いています。人の暮らしの近くにすみ、夜に姿を見せる狐は、昔の人にとって、とても不思議で身近な生き物だったのです。







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