ろくろ首とは
ろくろ首は、夜になると首が長く伸びる妖怪です。ふだんは普通の女性の姿で暮らしていますが、寝静まった夜中に首がにゅーっと伸び、行灯(あんどん)の油をなめたり、人を驚かせたりするといわれます。本人は自分がろくろ首だと気づいていない、という話も多く伝わっています。
ろくろ首は、日本の妖怪の中でも特によく知られた存在の一つです。名前の「ろくろ」は、井戸のつるべを上げ下げする滑車や、焼き物を作る回転台の「轆轤(ろくろ)」に由来するといわれ、首がするすると伸びていく様子を表しているとも考えられています。
首が伸びる型と抜ける型
ろくろ首には、大きく分けて二つの型があります。一つは、首が長く伸びる型です。体は布団の中で眠っているのに、首だけがどこまでも伸びていき、部屋の中や天井を這い回るといわれます。
もう一つは、首が体から完全に離れて、空を飛び回る「抜け首」の型です。抜け首は、夜になると首だけが体から抜け出して飛び回り、明け方になると体に戻ってくるといわれます。首が抜けている間に体を動かされてしまうと、首は元に戻れなくなり、死んでしまうと語られました。
中国の「飛頭蛮」
抜け首の型は、中国の「飛頭蛮(ひとうばん)」という伝承がもとになったと考えられています。4世紀ごろの中国の書物『捜神記』には、夜になると首だけが体から離れて飛んでいく「落頭民」と呼ばれる人々の話が記されています。江戸時代の浮世絵師・鳥山石燕は、1776年の妖怪画集『画図百鬼夜行』で、首が長く伸びた女性の姿に「飛頭蛮」の文字を添えて描きました。
東南アジアにも、夜になると女性の首が内臓をぶら下げたまま体から抜け出して飛び回るという、恐ろしい妖怪の伝承があります。首が体から離れて飛ぶ怪異は、アジアの広い地域で語られてきたのです。
小泉八雲の「ろくろ首」
小泉八雲の『怪談』(1904年)に収められた「ろくろ首」は、抜け首の話として有名です。もとは武士だった旅の僧が、山の中の一軒家に泊めてもらいます。夜中にふと目を覚ますと、家の者たちの体が横たわっているのに、首がどこにもありません。家の者たちは皆、首が抜けて飛び回るろくろ首だったのです。
僧は、主人の体を別の場所へ動かして首が戻れないようにし、外で人を食べる相談をしていた首たちと戦います。最後には、主人の首が僧の袖に食らいついたまま離れなくなってしまい、僧はその首をぶら下げたまま旅を続けた――という、不気味でありながらどこかユーモラスな話です。
見世物小屋のろくろ首
江戸時代には、見世物小屋でろくろ首の出し物が人気を集めました。幕の向こうで女性の首がするすると長く伸びていく出し物は、実際には首の部分を作り物にしたり、別の人が隠れて首を動かしたりする仕掛けでした。こうした見世物によって、首の長い女性という姿が、ろくろ首のイメージとして広く定着していきました。
ろくろ首の正体は?
ろくろ首の話がどのように生まれたのかははっきりしていませんが、眠っている間に魂が体を抜け出すという「離魂(りこん)」の考え方と関係があるという説があります。夢の中で自分がどこかへ飛んでいく体験を、首が抜けて飛び回る話として語ったのかもしれません。行灯の油をなめるという話は、化け猫にも見られるもので、夜の灯りの下の不思議な出来事として語られてきました。
現代のろくろ首
ろくろ首は、現代の漫画やアニメ、お化け屋敷でもおなじみの妖怪です。首だけで行動する不思議な存在としては、顔のないのっぺらぼうと並んで、「人の姿をしているのに、どこかがおかしい」妖怪の代表格といえるでしょう。







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