産女とは
産女(うぶめ)は、お産のときに亡くなった女性が、赤ん坊を抱いた姿で現れるという幽霊・妖怪です。夜道や川のほとりに、血に染まった腰巻きをつけた女性が赤ん坊を抱いて立っており、通りがかった人に「この子を抱いてください」と頼んでくるといいます。母と子の命が危険にさらされることの多かった昔の出産の悲しみが、この話を生んだと考えられています。
赤ん坊を抱くと――
産女に頼まれて赤ん坊を抱くと、赤ん坊はどんどん重くなっていきます。重さに負けて手を放してしまうと命を落とすこともありますが、念仏を唱えるなどして最後まで抱き続けた人は、怪力を授かると伝えられています。気がつくと、腕の中の赤ん坊は石や木の葉、わらの束に変わっていた、という話もあります。
今昔物語集の産女
平安時代の説話集『今昔物語集』には、源頼光の家来であった平季武(たいらのすえたけ)が、産女に出会う話が収められています。度胸試しで、産女が出るという川を夜に渡ることになった季武は、川の中で赤ん坊を抱かせようとする女に出会いました。季武は赤ん坊を受け取ると、女が「返せ」と言うのにも構わず、そのまま岸に上がって屋敷に戻りました。すると、抱いていたはずの赤ん坊は、木の葉に変わっていたといいます。
「姑獲鳥」と書く理由
産女は「姑獲鳥」と書いて「うぶめ」と読むことがあります。姑獲鳥は、中国の伝説に登場する鳥の妖怪で、夜に飛び回って人の子どもをさらい、自分の子にしてしまうとされていました。お産で亡くなった女性が化けたものとも言われたことから、日本の産女と同じものと考えられ、この漢字が当てられるようになりました。江戸時代の絵師鳥山石燕も、産女の姿を「姑獲鳥」の名で描いています。
小説『姑獲鳥の夏』
産女は、現代の文学にも大きな影響を与えています。作家・京極夏彦のデビュー作『姑獲鳥(うぶめ)の夏』(1994年)は、二十か月も身ごもったままの女性をめぐる不思議な事件を、古本屋の主人で陰陽師でもある京極堂が解き明かす推理小説で、妖怪の伝承と人間の心の謎を結びつけた作品として人気を集めました。2005年には映画にもなっています。昔の人々が出産にまつわる不安や悲しみを産女の姿で語ったように、妖怪は今も物語の中で、人の心の奥にあるものを映し出しています。
子育て幽霊の伝説
産女の話は、各地に伝わる「子育て幽霊」の伝説ともつながっています。夜な夜な飴屋に一文銭を持って飴を買いに来る女性がいて、不審に思った店の主人があとをつけると、女性は墓地の中に消えていきました。墓を掘り返してみると、亡くなった身重の女性の亡骸のそばで、墓の中で生まれた赤ん坊が飴をなめていた――という話です。京都の六道の辻には、この伝説にちなんだ「幽霊子育飴」を売る店が今も残っています。
産女や子育て幽霊の話には、子を残して亡くなった母親の深い愛情が込められています。水辺に現れて赤ん坊を抱かせる妖怪としては、九州などに伝わる濡れ女の話もよく似ています。抱くと重くなる妖怪としては子泣き爺も有名です。





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